分娩室の前、入院中の父さんの姿はもちろんなく
俺と陽介でその瞬間を迎えた。
陽介は待ちくたびれて、俺の隣で眠っていた。
しかし産声が響くと、ぱちっと瞳を開き、嬉しそうに笑った。
《西原ベビー》今回はピンク色の札。
女の子である。
『にぃちゃん』
『うん?』
『どれがうちの赤ちゃん?』
『…正面の』
まだちびな陽介は抱えないと、赤ちゃんの姿は見えない。
『だとおもった~1ばんかわいいもん』
陽介は嬉しそうに笑った。
しかしすぐ、眉間にしわを寄せた。
『でもさ、にぃちゃん』
『何だ?』
『おしめどうするの?おんなのこだよ?
にぃちゃんかえれんの?』
陽介が心配そうな顔をして俺を見る。
俺は笑った。
久しぶりに笑った気がする。
父さんの姿はない、けど
いつかの父さんのセリフが頭を流れる。
このシチュエーションはまさにデジャブ。
面白いなぁ親子って。
陽介は首を傾げるが、俺は陽介の頭を撫でた。
『心配するな、陽介のだってどうにかなったんだし』
『ほんと~?』
『それに父さんは女の子の方が自信あるみたいだしな』
『そうなの?』
そして陽介は俺に『おしっこ』と言った。
