「俊くん、いい奴だと思うよ」

終わりかけのマスカラを見つめながら
呟いた。

もうこのマスカラも売られていない。

気に入ってたのに。美風はそんな事を考えてた。

好きなものは流行ってるものじゃない。

自分に合う好きなものが一番だ。


「美風、マスカラそれどこの?かわいー。
明日俊くんとちゃんと話してみる。」

「それがいいよ。わかんない安いやつ。」

「それすごい、まつ毛長くなってる。いいなー」

「由美は長いからいいじゃん。わたしなんか一苦労だし。
つーか、もうないや。マスカラ買わなきゃ。」

美風はため息をついた。

どーせ。マスカラぐらいじゃ、かわいくなんてなれないもん。
心の中で毒づいた。



この街はなんだってある。

なんだってあるから、迷い、選べてしまうんだ。

選ばれないのはこんなに辛い事なんだ。

きっと私は売れ残った存在、
選ばれなかったんだ。


俊くんにも。