重なる平行線

時計は8時の後半を指していた。

「私、そろそろ帰るね」
「ん、あー結構経ったな。俺も帰るわー」
「………」
「他に訊きたい事ある?」
「いや、もういいや。全部訊いた」
「……………」
「そ。…私にそれ訊ねる為に、此処まで来たんだ」
「この水貴様に理由なんてないんだよ」
威張る水貴くん。
なかなかのどや顔ですね。
「………………………………………………」

…ん?

約一名、だんまりを決め込んでいらっしゃる殿方が。

先程の水貴の台詞で、なんだそりゃー、みたいなツッコミを入れてくるものだと。

水貴も、鞄を取ろうとした手を止めて、津坂を覗き見ている。

「「「………………………」」」

逃げ出したくなる白けた空気。
どうしよう、ボケすらできなさそうだ。


「一つ、訊いても良いかな?」

不意に告げられる津坂の言葉。

言葉の矛先は、私。

「…いいよ」

少しの間。

そして、

「鈴原さんは、…、

――家族が死んで、悲しくないの?」