「…こっちだ」
「…は?」

戸惑う俺を余所に、踵を反して警察署の敷地から出ていってしまう。

「おぃ、水貴、何処に…」

慌てて後を追うと、少し先に公園が視界に入った。
声を掛けられない雰囲気だったので、何で公園?とか訊きたかったが、ひとまず黙って後ろをついていく。

今日の俺は振り回されてばかりだなぁ。
俺が勝手にくっついて来ただけだけどさ。

水貴の歩みが速度を増す。水貴の顔がやや左へと向き…

  「… 見つけた」

…驚いた。

それは、俺が、津坂旭が。今まで一度も見たことがない顔だった。
人を騙す時も、悪戯をする時も、6股している時も、俺といる時ですら。

今までに、きっと誰にも見せたことがないような顔で。

ひどく優しく、
とても愉しそうで。
今までで一番満足気な顔で、
ほころんだ笑顔で、

「美月」

彼女の名を呼んだ。