家族が笑っていた想い出は何処に仕舞ったのだろう。

消えたのか、忘れているだけなのか。

元からそんな過去なかったのかな。

痣で腫れ上がった顔を嘲笑いされている記憶が替わりに出てくる。

殴られた記憶。

それに伴い右の頬が何もないのに痛覚を訴える。

これが幻視痛か。
…ちょっと違うかな。
両手を壁に捧げる様に上へ掲げる。
縋りたいと、思った。

私が壊れてしまう時、いつも手を空に掲げる癖があった。
それが何故か、今ならわかる気がする。

誰もいない部屋。

私しかいない。

なら、縋れるのは私しかいない。

手を提げて両肩を抱く。
肩から伝わる掌は、暖かかい。

玄関のチャイムが家に響いた。

音は一人しかいない家に透き通り、木霊する。

私は立たない。

暫くの静寂の後、ドアの開く音がした。