だから、

…だからも何もないけれど。

裕一君から少しだけ、その因果を絶ちきってみた。

理由はない。

ほんの気紛れ。

『有難う』と感謝の言葉を繰り返し並べた。
その間に耳に届いた電話越しの嗚咽は聞こえないふりをした。

その涙の意味は知らない。

知る必要はない。


私が言った捨て台詞で彼の肩の荷が軽くなればいい。

拒絶したことで彼の感じる罪が薄くなればいい。

そう、他人事に考えた。

手を使わず足だけで立ち上がる。

冷えたお茶を飲む為に。

歩きながら想いだす。
彼の零した謝罪を想う。

ななみちゃんの未来を願う。

茶碗に注いだ麦茶。

一滴、口から零れた滴が顎を伝う。

想いは記憶の墓場に埋めておく。

願いは、そのまま空に融けて消えていけ。


堕ちた滴が、足に触れて跳ねた。




嗚呼、


永い長い電話だった。