お店を出ると、今のやり取りを少し離れた場所から見ていた愛美がニヤニヤしながら肘であたしを小突いてきた。

「よかったじゃん」

「うん。でもあんまり出れないって言ってたし、いつ電話していいんだろ……」

車に乗り込み、キーを回してエンジンをかける。

車内の空調機からはまだ暖まっていない冷たい風が出てきて、身震いをしながらハンドルを握った。

「あ、そうだ!ドコモかもしれないし、ショートメール送ってみたら?」

なるほど。

それならそれほど時間帯を気にしなくてもいいし、彼も気が向いた時に返事ができる。

あくまでドコモだったら、の話だけど。

帰宅後、早速彼にメールを送ってみたが、エラーメッセージがこないところを見ると、どうやらドコモで間違いなさそう。

しかも意外な事に、数分も経たないうちに返事が帰ってきたのだ。

“メールありがとう。名前聞いてもいいかな?”

その文面を見て、改めて自分にどれだけ余裕が無かったのかを思い知った。

名前すら名乗っていなかったなんて……。

とにもかくにも、なんとか彼のアドレスを教えてもらうことができ、嬉しさのあまりなかなか寝付けない夜を過ごしたのだった。