甘いけれど冷たいコーヒーが喉を潤す。喉が焼ける煙草と相変わらずマッチしている。持っていた携帯を見つめながら、ふと千春の事を思い出した。電話してみようか。少しは元気になっただろうか。久しぶりに声が聞きたい。煙草を左手に持ち替え通話ボタンを押す。
〈この番号は現在使われておりません〉
コール音も鳴らない内に機械的な音声が流れた。電話帳に登録したのだから番号は間違えていない。
「もういいや…」
そんなものか。と私は気持ちが冷めた。山下との、あの出来事は何だったのだろう。もう遠い過去に感じる。千春は遠くへ行ってしまったんだ。私の知らない世界に。人間なんて、こんなもの。だから人間は嫌いなんだよ。安易に人間に近づくのは、もう辞めにしよう。馬鹿みたい。自ら惨めになるのは、真っ平ごめんだ。1人で生きて行けば良い。また適当に仕事を見つけて、その中の人間とは関わらないで、親に飯を作って貰えれば、それでいい。私は溜まった汚物を吐き出す様に唾を吐いた。
「おねえさーん」
突然、見知らぬ高校生4人組が声をかけて来た。
煙草をくわえフードを被ったまま、あからさまに面倒臭い顔で学生さんの方を見る
「…」
その中の1人がニヤニヤしながら、
「おねえさん、一緒に写真撮らない?」
と言って来た。写真?何かに悪用でもするのか?突然逢った人に普通言わないだろう。
「撮らないです」
私は一言そう言って、公園から出た。あーうざい。ただでさえ暑いのに暑苦しい。すると背中越しに、
「ばーか!ぎゃはは!」
と負け犬の鳴き声が聞こえてきた。人間に関わりたくないのに、そっちから近寄って来て、ばーか!ぎゃはは!って言うお前等が馬鹿だろう。
私はクルリと身体の向きを変え学生さんの所に、つかつかと近寄った。何を身構えしてんだ馬鹿共が。さっきの勢いはどうした。え?
「馬鹿に馬鹿って言われたくねーなぁ!この糞ガキ!」
吸いかけの煙草を投げつけた。制服に穴が開いたらママに縫って貰いなさい。団体様でないと何も出来ない坊や達。皆死ねばいいのに。私が死ねば手っ取り早いか。自分が首を吊って穴と言う穴から体液を垂れ流して、白目を向いて死んでいる姿を想像しながら、家に帰った。