もう12月だと言うのに、外の空気を遮られた狭い場所で働いているから、季節に関係無く毎日、汗をかく。12月の、ひんやりとした空気に包まれるとサウナから出て冷水を浴びる様に、身体に残った汗を刺激して気持ちが良い。同時に、この寒空は空気が澄んでいて綺麗で、ふぅっと深呼吸して、ずっと肺に溜まってしまった汚染された空気と入れ替える。空を見上げて見る。夏よりも星が良く見える。私は冬が好きだ。このバイトを始めてから一層そう思うようになった。夏場は汗だくになって、外に出ても汗だくになるし、食べ物を食べれば汗をかく。だけど冬は、こうして外に出れば、空気が冷たくて綺麗で、寒ければ沢山着込めば済む。夏は、たとえ裸になっても暑い。
「どーしたの?」
ぼーっと上を見上げて星星を見つめていて、自分の世界に入り込んでいた事に、はっとする。
「なんかね、星が綺麗だな~ってさ」
指を上に差して見せる。
「星ー?あ~、ほんとだぁ、綺麗だねぇ」
2人でポカンと口を開けて空を見上げる。側から見たら、田舎から上京して来て切符の値段が分からなくて、じっと運賃表を見つめて悩んでいる人みたいに見えるのだろうか。
空と星を見上げながら私は、働き出してから自分は、ずっと下を向いて生きてきたなと思った。多分、自分に余裕が無いのだろう。まだ19歳で高校を卒業したばかりの子供だから。高校生の頃は、2階の窓際の席で、いつも、ぼんやりと空を見つめていたて明日の事など考えもしなかった。だけれど今は、毎日が必死で、空を見上げる余裕など無くなっている。苛々しながら下を向いて人の波を避けて歩き、下を向いて無心で食べ物を口にしている。
久しぶりに空を見上げた気がした。