朝焼けのアスファルトに2つの長い影が伸びている。背の高い彼が更に背が高くなり、もう1つの影は枝の様に足が伸びている。一睡もしていない瞼に朝日が眩しく痛く心地よく突き刺さって来る。居酒屋に行った後、カラオケで始発を待っていた。舞は疲労困ぱいの様子だった。途中から眠っていた。私はと言うと、得意な筈だった自分の気持ちを殺すのが精一杯だった。いつしか、話しの流れで浅倉さんが犬を飼っていると言っていたので、私は冗談混じりに、見たい。と言ったら、意外にもアッサリいいよと言ってくれて今に至る。
駅から遠いマンスリーマンションと言うか、壁の薄い綺麗なアパートで、ご主人様の帰りを待っていた、チワワのワンコは私に人見知りなどせずに飛び付いて来た。ピカピカ滑るフローリングが犬の爪と相性が悪く、犬の逸る気持ちを遮るみたいに犬はシャカシャカ滑りながらやって来た。
「名前は?」
「チィ」
「チワワだから?」
「うん」
「そのまま」
ふっ…と、私は小さく笑ってしまった。他人の為に笑う自分に戸惑う。
「こたつの中、入ってて。何か飲むか?」
「…じゃあ、お茶で」
チィは、チョコチョコ私の後をくっ付いて来て、私の手や口を舐めている。
浅倉さんが私の前に、グラスに入ったお茶を差し出してから、どこかへ行ってしまっても、チィは私の側を離れ様としない。
チィと2人きりになると、益々自分の顔がほころんでしまう。動物は好きだ。
でも今は、チィはチィで好きでも、浅倉さんが好きな自分が居る。そして浅倉さんの部屋に居る。あっさり浅倉さんが私の部屋に上げてくれたのは多分、私を女と見ていないからだろう。それでも構わなかった。2人きりになりたかった。西村さんが何度も私に、「楽しいな」「メアド教えて」「また逢おうな」とか凄くしつこかったけれど、会話が余り成り立たないカラオケボックスを言い訳に、メールで舞んに〈浅倉って人、気に入った〉と送信したらすぐ〈いい感じだよね。応援してる〉そう聞いて安心している。洗濯していた。と戻って来た浅倉さんと朝のワイドショウを何となく見つめる。沈黙はチィが埋めてくれている。途中、寒くないか?と、遠慮する私に押し入れから毛布を出してくれた。