送りの車に乗る気力さえ無い。ドライバーに電車で帰ると嘘をついて、フラフラになりながら、店から離れた公園のベンチで腰を下ろした。終電は、とうに行ってしまった。帰れる術も無く、途方に暮れる。でも何故だろう、気分は落ち着いている。このまま始発まで待つか…。と俯き、考えを巡らせていた。
「美優ちゃん」
聞き覚えのある声に顔をあげると、そこに多田が居た。
「…どうしたの?何で、こんなとこに居るの?」
「そっくりそのまま返すよ。美優ちゃんが、ちゃんと帰れるか見てた。後つけてた。ごめん。でも、そんなとこに座り込んでさ、やっぱ動けないんでしょ?」
「終電行っちゃったし…。始発まで待ってる」
「はぁ?美優ちゃんマジ危ないって。俺がタクシー拾って送るよ」
タクシー?死んでも自宅を知られたくない。
「車乗れる気分じゃないからいいよ。帰りなよ。大丈夫だから」
「放っておけるかよ!俺マジで美優ちゃんに惚れてんだから!」
大きな声が頭に響く。ザクザクして視界がグニャ…グチョとして多田と周りの景色が真っ赤になって真っ黒になった。