紅く染めた日、部署に向かういつもの廊下の途中のトイレから聖が見えた。髪型が気になる様で、何度も鏡を見つめている。毎朝の日課なのか…。ナルシスト…。周りに女が居ないトイレの中で聖が近くに居る事に目が離せずに、その場に立ち尽くしていると、やっと納得がいった顔で彼が出て来た。当然目が合った。驚いた顔をしている。
「…」
「…」
あからさまに無視出来る雰囲気でも無く避けて避けられていた者同士、何を話して良いのか分からず数秒沈黙になった。
「…凄い髪の色だね」
沈黙を破ったのは以外にも聖の方だった。
「うん…趣味」
染めた甲斐があった。良かった。彼のお陰で今は2人だけの空間が作られた。
「好きな人でも居るの?」
「は?」
心の中に留めておこうと思った声がそのまま出てしまった。この人とは、つい先日まで仲良くしていたよね。本当に、つい先日。 自分から言い寄って来たくせに失礼な事を言う人だね。
「髪、染めてイメチェンするから、どうなのかなって」
その言葉によって、あなたに振り向いて欲しいと言う希望は消えました。そんなに髪を、とかしまくる女に夢中ですか。おっかしい。その気持ちの切り替えの早さに圧巻。私もアンドロイドだった時は出来たのに、あなたのせいで出来なくなりました。