舞の彼氏は恥ずかしがり屋らしくて、行きは人が多いから、少しは人が疎らになる帰りだけ2人は一緒に帰っている。だから舞に彼氏が出来ても朝は、駅でいつもの場所で待っているといつもの様に舞がやって来る。私を見るなり、
「おはよー。何か、また可愛くなってない?」
「何が?」
と、ぼけつつ、いつもより丁寧にメイクをしたからだろうと思った。舞は洞察力が有るから、すぐに気が付いてくれるし人を見る目が有る。だからと言って私が可愛いのは肯定しない。ただ聖さんに見て貰いたいだけだ。
「てゆーか、見ちゃった!」
三日月目でニタニタしている。
「何が?」
今の切り返しは、とぼけてはいなくて、普通の疑問符。
「昨日、ちょ~格好いい人と帰り歩いてたでしょ~!ちょ~目立つから!」
目撃されたのなら、すっとぼけられない。
「うん…。同じ部署の人。何か声掛けられて」
「それ!ちょ~凄いってば!」
「凄いの?」
ちょっと自慢したい気持ちを抑えて聞く。
「その人、ウチの部署でも話題ってゆーか、狙ってる人居るんだから!しかも向こうから話し掛けられるとかヤバイよ!うらやましい~」
私達が歩く先に、颯爽と歩くモデルみたいな人が居る。聖さんだ。普通の白と青のチェックのシャツに普通のデニム姿なのに何であんなにも素敵に着こなせるのだろう。ブランドの服を身に付けている訳でも無いのに。軽装な格好を見つめていると、裸になった姿が見える気がして来て、昨日の甘い出来事を思い出してしまった。裸同士で私を抱きしめ何度も唇を重ねた。キスってこんなに気持ちがいいものなんだと教えてくれた。私が黙って視線を前に向けているのに舞も同じ方を向いた。
「あ、噂をすれば。私服姿も格好いいね~」
「ね~」
「ね~って…、昨日何してたの?」
"昨日"と言われると益々思い出されて、歩き続ける暑さの汗とドキっとした冷や汗が混ざる。
「いや、普通に、お茶しただけだよ」
「ふ~ん?」
私、聖さんの彼女…で、いいんだよね?狙っている奴が居るなんて許せない。聖さんは私のもの。見つけたらビームで殺してやる。舞は何か言いたそうにしていたけれど工場に着いてしまった。