幸せな時間は、あっと言う間で、明日も朝早くから仕事に行かなければいけない。反対方面に住む私達は繋いでいた手を離し、駅の別々のホームで向き合って電車が来るのを待っている。私は電車が来ないで欲しいと願っている。人混みの中で、さっきまで本当にさっきまで繋がっていた人が近くて遠い。線路を挟んだ向こう側に居るのに。誰よりも聖さんは光っている。その他大勢とは別格であって、特殊な人に見える。駅のホームとか、公園に居たカップルとか五万と居る人間の中で、聖さんと出逢えた。私を選んでくれた。ずっと繋がっていられないものか。今なら阿部定の気持ちが分かる。狂愛…。自分を分析してみる。初めての経験だから舞い上がっているだけ?一過性のもの?感情を殺して来たから?携帯をいじっている聖さんを見やる。あ…。アドレスとか聞いてなかった…。聞かれなかったし…。聖さんの居るホームから電車が来た。何故だか泣きたい。電車に乗り込み、私が見えるドアの所で電車が走り去るまで手を振ってくれた。明日になったら、また逢えるじゃないか。そうしたら、アドレス聞こう。友達でさえ自分から聞くのって苦手だけど勇気を出して聞こう。聖さんに逢う為に仕事に行こう。涙ぐみながら滑り込んだ電車に乗った。