イマージョン

「美夢ちゃんって、無口…てゆーか、おとなしいよね」
「えーと…そんな事ないですよ。緊張しちゃって…」
「そうだよね…。俺、なんかいきなり誘っちゃったし…。ごめんね?」
「謝らないで下さいよ。嫌だったら、お断りしてますよ」
「そっか…そうだね」
私の言葉に、ほっとしたのかまた、反則級の優しい笑みを返して来た。嫌だったら、お断りしてますよって意味深と言うか、あなたに気が有りますよ。みたいな台詞になってしまった。私は聖さんに恋をしているのか?一目惚れというものなのか?でも、誰が見ても、この出で立ちと笑顔は女子からしてみれば、いちころばたんきゅーになると思う。私は聖さんの催眠術にかかっているのか。最初に聖さんに話し掛けられなかったら、聖さんの魅力に気がつかなかったし、存在すら、うやむやになっていた。工場に何千人と居る女子の中で、どうして下級の私などに声をかけてくれたのだろう。そうだ聖さんは目が悪いのかもしれない。
「目、悪いです?」
「は?」
「視力…」
「え?何?いきなり。悪くないけど?美夢ちゃん、いきなり面白い事言うね?」
「あ、あー、すみません。ごめんなさい。私なんかに話し掛けてくれるなんて…てゆーか何で私なんか普通以下の奴なのに。もしかしたら聖さんは目が悪いのかなーって」
「あはは。ほんと面白いね。俺、目ぇ悪くないよ。美夢ちゃん可愛いから…」語尾が小さくなり、そう言った後、俯いてしまった聖さんは半分になったアイスコーヒーを見つめている。
お互い顔が赤くなっている。夢かもしれない。私は吸いかけの煙草の灰を左腕に落とした。
「!!あっつい!!」
「!?なにしてんの!?大丈夫!?」
咄嗟に聖さんは、おしぼりを私の腕に当てる。煙草の800℃の熱と、おしぼりの冷たさ、そして、おしぼりから伝わる聖さんの手の感触に夢では無いと実感した。脳の中の色々な神経がオーバーヒート。おしぼり越しだけれど初めて聖さんと触れた事で、熱さと恥ずかしさで、また頬を赤らめ汗をかいた。