指先を使う仕事なのにネイルなんか塗るんじゃなかった。人間らしい事をしてしまった。髪を染めた時にネイルも塗ってみたけれど、今日のお昼の時点で、ブルーのネイルは右手の人差し指と中指が剥げている。ネイルを見つめながら、
「なんでもないよ。それよりさぁ、付き合えそーだって言ってた人とは、どーなったの?」
ずる賢い私は、舞の話題に転換させる。けれど舞は、恋だの彼だのの話しが好きだから、やっと聞いてくれたね。と言う表情で、また瞳を少女漫画の様に爛々とさせて、
「え?付き合う事になったんだよ~最近ねー」
女の子は恋をすると、表情が明るくなるものなのだな。私は義則の事を子分扱いしていたから、トキメキとか頭にオハナが咲くなんて経験が記憶に無いな。また義則の事を思い出し腹が立つ、ネイルも剥げて腹が立つし、考え無しにネイルを塗った自分にも腹が立つし、よく見ると爪が伸びている。何故人間は爪が伸びるのか。面倒くさい。爪が伸びる人間。生き物。腹が立つ。怒りの矛先が在らぬ方向へ行ってしまう事にも腹が立つ。爪が伸びて伸びて、在らぬ方向へ…。都合が良い時だけ妄想すれば良いものを妄想が癖の域に達している事に此処で気が付く。えぇと、今私は何の話をしていたんだっけ。…そうそう、舞にね、彼氏がね。
「付き合ってるんだ!やったじゃん!おめでと~」
頭のモヤモヤを振り払う様に無駄なハイテンションで舞の肩をパシパシっと叩く。
「痛いってばぁ~、あはは、ありがとー!美夢にも彼氏出来るといいね!」
痛くも無いだろうし、今の後半の台詞は、取って付けた感じに取れたが、私はまた、そーねー。と適当に交わしておいた。