ずっと前に買い置きしてあったの。と言って歯ブラシを貰った。一緒に鏡の前に並んで、シャカシャカ磨く。こうした時間が、いつまでも続けば良いのに。けれど眞奈は、もう前を見ている。実家に帰って、また1から、やり直すのだ。やっぱり凄いよ眞奈。簡単に逢いに行ける距離では無くなるけれど、応援しているからね。ありきたりな言葉しか浮かばないけれど…。妄想が行き過ぎて、大事な時に言葉が出て来ない。それもこれも優介のせいだ。人のせいにして今、私は納得している。
ハシゴから眞奈が落ちない様に、眞奈を先に上に上がらせてから私が後から上る。そうすれば寝ている時でも眞奈が寝返りをうっても私がハシゴ側だから、落ちる事は無い。私も少し痩せたから前に一緒に眠った時より少し場所に余裕がある。眞奈は私に身を委ねている。薬が効いてきた様で、天使の様な顔で眠りに落ちていった。天使は見た事は無いけれど、それは多分各々の主観であって大体は、よく絵に描いた想像上の天使とか、教会に居る天使とかかもしれない。けれど私にとっての今の天使は眞奈。さっき天使が出て来る映画を観たけれど、そのストーリーとは逆で、今は人間の私が天使の眞奈の傍にいて、少しでも安心して眠って欲しいと思った。私は天使の柔らかい髪を、かき分けながら優しく撫でて、そっと頬にキスをした。