イマージョン

小さな白い紙の袋と化粧品と煙草が置いてあるテーブルに麦茶を私の、いつもの定位置に差し出してくれた。
「ありがとう」
走り続けていた身体を忘れていた為、麦茶が一層美味しく感じる。今は人間。あ、前に置いていった、お煎餅も置いてある。湿気っていないかな。試しに食べてみよう。パリっとしている。お煎餅は個包装だから大丈夫みたいだ。アンドロイドの時は、より一層、コンビニに寄るなど、余り食べなくなった人間以上に頭にインプットされているから、眞奈に何か買ってくれば良かったと後悔した。玄関の扉が開いた瞬間、眞奈は、また痩せたようだったから。お煎餅を口にしてから、こんな事を思い出すなんて。愛しの眞奈なのに、
「なんか買ってくるの忘れちゃった。…食べる?」
お煎餅を見せる。
「…眞奈、いま食べられないんだ」
曇った顔で答える。
「どっか具合悪いの?」
「学校で倒れちゃって…」
「え?!何で?病院行った??」
「倒れた時に運ばれて」
「原因は?」
「不安発作?パニック障害?みたいに言われたの」
「どうしてまた…」
言葉が見つからない。言語が少ないアンドロイドに成り過ぎた自分がオカシイと思った。眞奈は思い出した様にテーブルに置いてある白い小さな紙の袋に手を伸ばし、取り出した数種類の錠剤を、麦茶と一緒に飲み込んだ。あの紙の袋は薬だったんだ。
「何の薬?風邪?」
「安定剤…」
安定剤と言う物が無いと、痩せ細り顔色が青白い眞奈が死んでしまうとさえ思った。