今頃になって息切れと言うものが襲って来て立ち眩みがした。まだまだ私は人間なんだと思い知らされる。もっと上手く使いこなしたい。だけれど肺の機能は必要かもしれない。煙草の旨さが分からなくなるのは困るからだ。ハタチのガキが何が煙草の旨さ云々言ってるんだよと、少し馬鹿馬鹿しくなっていたら、また自分には馬鹿馬鹿しい感情も有るのかと思った。まだまだガキで人間臭いな。でも私は眞奈と顔を合わせた瞬間に人間になるだろう。金曜日まで多分、眞奈と同じ位待ちわびて、もどかしさの感情を殺す事によって私はアンドロイドになる事が出来て、お陰で、もどかしさ以外にも色々な感情を殺す事も覚えて、必要な時には人間になれた。収穫の有る日々だった。私は眞奈の事が好きだから、好きの感情は抑えたくないし、抑えられないだろう。素直に人間になれる。
ドアが、ゆっくりと開く。
「待ってたよ。どーぞ。あがって」
「うん。おじゃまします。…あれ?」
いつも、とっ散らかっている部屋が綺麗になっている。その代わりに壁際に段ボールが山積みになっていたり、荷物をしまいかけで蓋が開いたままの段ボールもある。必要かもしれない洋服、化粧品、タオルなどが散乱していて家具が置いてあるだけ。この部屋で、いちばん目に入っていた優介との写真も無い。
「…引っ越すの?」
「うん。眞奈、実家帰ろうと思って」
「実家どこ?」
「兵庫。眞奈が、ここに住んでるあいだに、おとーさんの実家にみんな帰っちゃったのね。眞奈も、そっちに帰ろぉと思って」
「え?…学校は?」
私の問いに返事はせずに眞奈ちゃんは、綺麗になったグラスしか置いていない台所に向かって行った。