「お母さん! お母さん!」
「百合子! しっかりしろ!」
とある病院の一室で僕と父は母の名前を叫び続ける

ピッ…ピッ…ピッ
「お母さん! お母さんお母さんお母さん!」
「百合子! 俺がいるぞ!」
ピッ…ピッ…
心電図のスピーカーから聞こえる無機質な音は僕らの叫びより大きく聞こえた
ピッ…ピッ…ピーーー
「百合…子? おい…嘘だろ? こんなのシャレにならないぞ…? なあ、起きろよ…起きろよ!」
部屋に居た医師がすいませんと割って入った
「5月12日22時18分…御臨終です…」
その言葉を聞くと、僕の頭から体から、心から何かがこぼれ落ちた
僕は母に抱き着き、いやしがみつき号泣した。
「お母さん! お母さん! お母さん! うわあああああ」
母の顔はあえて見なかった、悲しくなるから。
次の日、身内間で静かに葬式が行われた。
春の終わりの頃の事だった。