「レーン!!!」

僕を呼ぶ声に振り向くと、逆光で影になったリンの姿があった。
リンはシンプルなデザインのワンピースに白色のカーディガンという格好だった。
何故かいつも似たようなワンピースを着ている。けれど、それが二つにわけたおさげによく似合っていた。

「レンってば、ねえ!!」

ぼーっとリンを見つめていると、ムッとしたような表情になって近付いてきた。
よく見ると左手には板チョコを持っていた。

「ああ、ごめんごめん…どうしたの?」
「さっき買い物行ってきたから、ついでだけどお菓子買ってきたの。――はい」

リンはニコっと笑って、板チョコを半分に折り、片方を―――――僕の隣に差し出した。

「――ありがとう」

僕は出来るだけさりげなく、そのチョコを受け取った。
リンは気付いた様子もなく、ニコニコした表情のまま僕の隣に腰かけた。

「んーっ!チョコ食べるのって久しぶりだね!!やっぱおいしーっ!!」
「久しぶりでも何でもないだろ?先週食べたじゃん」
「で…でも久しぶりなのっ!」

そう言うと、リンは幸せそうにチョコを頬張った。
そして思わず、その笑顔の邪魔をするかのように付けられた眼帯に目がいった。

彼女は――――――幼い頃に事故に遭い、左目の視力を失ってしまったのだ。

「幸せそうだね」
「うん!!」

即答。思わず笑ってしまった。

「レンは食べないの―――――あっ」

リンの目線の先には、僕の足元に散らばった粉砕されたチョコがあった。

リンは泣きそうな声になり、僕にごめん、と言った。

リン、君にはそんな顔はまるで似合わないね。

「いいよ、気にしないで」

そう言って苦笑すると、リンも複雑な表情をした後、笑い返してくれた。


僕の手は“ハサミ”。
どんなものでも、凶暴に切り裂いてしまう。だからハサミ。
力のコントロールが利かず、制御仕切れずに握り潰してしまう。
鉛筆も握れないし、箸やスプーンも持てない。ドアを開くとノブを引きちぎってしまう。小さな子の手をそっと握ってやることも出来ない。

そんな僕を、誰もが恐れた。