「……あぁ、何でもねぇ。でも、革靴じゃなくってスニーカーの音、だろ? まぁ靴音なんてそんな変わんねぇか……」
「違うよ、そのくらい分かるよ。かわぐ、つ……」

ふと視線を下ろした先には、少し汚れた白いテニスシューズ。吉村が普段部活で履いている、シューズ。

胸がざわざわする。
吉村も何も喋らなかった。
私が、「スニーカーの音だったわ」と訂正するのを待っているんだってことが、視線と空気で伝わってきた。私だって、あの足音がスニーカーの音だったって、思い込みたかった。

「あ、の、」
「今野、送ってくぜ!」

吉村はちょっと引き攣ったような顔でそう言って、私の手を握り締めて早足で歩き出した。繋いだ手はしっとりしていたけど、どちらの汗だったのかは分からない。二人の冷や汗、だったのか。

何か喋りたかった。
何か喋ってほしかった。
でも、二人の間に聞こえる音は、少し早くなった呼吸と鞄の揺れる音。


そして、後ろから一定の距離を保って追いかけてくる、革靴の音。


<了>