「何よ、アイツ、誰よ!」

 服部のファンらしい。でかい声で晶に文句言いやがる。

 その周りではコソコソと話し声が聞こえる。

「なにアイツ、舌なんか出しちゃって、可愛いつもりかしら」

 いや、普通に可愛いだろ。

「ああぁん、もうマジでウザい!」

「ウザいのはそっちだろ」

 あ、やべ、思わず声に出ちまった。でも、まぁいい……唖然としている女が、俺を見ている。

「悪口言ってて、楽しいのか?」

「え、別に、陽君に言った訳じゃ、な……」

「誰だって同じだろ、聞いてていい気分じゃねぇよ」

 冷ややかな俺の言葉に、女は、そのまま黙りこんでしまった。それでも、周りにはいっぱい女がいる訳で……なにも聞いちゃいない奴らがどんどん口を滑らせていく。

「部員だからって、いい気になってんじゃないの?」

「啓介君や陽君にかまってもらえるからって、マジうざい」

「ああいう勘違い女が出てくるの嫌よね」

 勘違いしてるのはてめぇらだっつうの。コソコソ話しててくれてよかったよ。こんなもん聞こえたら、晶は喧嘩売られたと思って買うかもしれないな。

 そうだよな、あいつは男勝りで、負けず嫌いで……でも、いつも一生懸命で、優しくて誰の悪口も言わない。

「あの女、啓介君のなによ……でかいくせにムカつく」

「黙れ」

 いい加減にしろよ。

「え?」

 晶の事を悪く言う奴は許さない。

「お前ら、マジうるさい」

「陽君?!」

「毎日毎日、練習の邪魔、いい加減に帰れ、二度と来るな」

 そう言ったなりだった。

 肩に圧し掛かる感触があたる。見れば、服部がにやにやと、俺の肩に腕をまわしていた。



「よく言った、江口」