やべぇ、やべぇ、やべぇ……もし、今『なんか唇に』とか言われたらいい訳出来ねぇ!

 そう思っているうちに、思わず俺は、手に持っていたタイ焼きを、アキラの唇に押し当ててしまっていた。

 うわ、何してんだ、俺……。

「うわっ……ち!」

 あ、起きた……アキラ、起きた……そう思ったら、なんか笑えた。俺、なんかすっげぇ悪い事したのに、笑ってごまかそうとしてる。

「あ、俺、もしかして寝てた?」

「うん、寝てた」

 あれ、俺ってすんなりアキラと喋ってる。

「何すんだよ、ったく」

 さっき触れた唇が、動く。

 俺、やっぱ悪い事したかな……でも、なんか不思議と後悔はないんだ。なんか、妙にアキラの声聞いたら落ち着いてきた。

 俺だけに向けられる声、言葉。

 なんだろう、俺だけが感じてる。

 キスした事で、アキラは俺のもんだって、そう思っちまってる……安心感。

「ジュースやめてタイ焼きにした、食う?」

「いらね、俺、甘いの嫌いだもん」

「そ、残念」

 俺は、何事もなかったかのように、そのままタイ焼きを食いはじめた。

 心の中には、呪文が広がる。

 アキラは俺のもん。

 アキラは俺のもん、エンドレスだ。



 そう思ってたら、アキラが俺の手にある、もう一つのタイ焼きを奪った。

「何? やっぱ欲しかったの?」

 可愛いって思える。

「うるせぇ、タイ焼きってのは尻尾側から食うんだよ!」

「そっか、尻尾側ね」

 アキラの言うとおり、俺はタイ焼きを、ひっくり返してかじった。

「今さら遅ぇつうの」

「あ、ホントだ。尻尾の方が美味い」

「同じだっつうの、馬鹿だろ」

 うん、俺バカだ……バカなんだ。



 アキラの知らないうちに、バカな事した。