「じゃぁさ、こういうのはどう?」

「は?」

 俺は叫んだ。

「ムカつく奴の顔思い出して」

 言いながら、大きくボールをあげて、サーブを打ち込む。

「その球、そいつだと思って打つ!」

 案の定、アキラの表情が変わった。すると、綺麗にボールはラケットに当たり、俺の頭上を通り越して行った。

 ま、初めてだし、こんなもんだろ。

「ナイス」

 俺は思わず手を叩いて喜んだ。勿論、アキラを泣かせた奴は許せない。アキラから笑顔を奪った奴……どんな奴か興味が、いや、嫉妬はあったけど、今はこうして俺の前で笑ってくれる事で許せた気がする。

「すっきりした?」

「あ、ああ、まぁ」

「筋は良いから、絶対にアキラもテニスうまくなるよ」

 そう言って、何度もやってるうちに、自然とボールに当たるようになっていった。

 でも、アキラの返す球はほとんどがアウトコースで、俺はかなり走らされた。

 アキラの球は、ちゃんと返したい。その一心だった。

 それでも限界はあるようだ。

「ちょ、タイム!」

 俺はそう言って、その場でに倒れ込んだ。

「もう無理、休ませて」

「何だよ、だらしねぇな」

 口をとがらせて、アキラも、その場に座る。

 からかっていたはずのアキラの表情が、真剣に変わる。

「ごめん」

 なんでこう、いつもドキドキさせられるんだろう。