だから、俺はまだ言わないでおこうって思った。

「ん? ああ、倒したい奴がいて」

 もう少し、俺を見て欲しい。俺自身を、俺だけを見て欲しい。そう思ったから。

「は?」

「俺、始めはテニスなんかって思ってたんだけど、俺の姉ちゃんがテニスやってて、それでさ、試合見て、姉ちゃん負けて、泣いてたから……」

「へ、へぇ」

「すごく悔しそうに……だから、俺が仇を取ってやるって思ってさ」

「……仇って」

「んん、でもよく考えたら、姉ちゃんだろ? 既に中学行ってるし、っていうか女だしさ。だから俺がどんなにやっても、その相手とは試合できねぇって思って」

 こんな理由で大丈夫か、俺。ちゃんと質問に答えられてるか? なんかすごく心配になってきた。なんか俺、訳わかんねぇ事言ってないかな。

「考えなくてもわかる事じゃん、馬鹿じゃねぇの?」

「ん、馬鹿だった」

「変な奴」

「でも、やってるうちにテニスが楽しくなって、ほかの誰より熱は入ちゃってさ」

「やっぱ馬鹿だ」

「うるせぇよ」

 こんな会話が出来るなんて思ってなかった。本当は、もう会えないんじゃないかって思ってたから。でも、今、アキラが目の前に居る。それだけで、なんか幸せなんだ。

「お前、南小だろ? 何年?」

「五年」

 あ、年上だと思ってたけど、違ったのか……同じか、そか。