案の定、アキラは困惑してる。
「でも、俺、ラケット持ってねぇ」
相変わらず『俺』なんだ、変わってなくてよかった。なんか嬉しい。
「俺、二本持ってるよ」
「それに、やった事ねぇ」
「俺が教えてやるよ。俺、これでもジュニアのエース」
そう言いながらでも、心臓は破裂寸前。でも悟られないように、俺はアキラにラケットを手渡した。
「何で一人でやってんだよ」
「あぁ、今日は休みだから」
「俺、区外の人間だぜ、ここ使っても……」
「い―のい―の、俺が区内だから」
アキラなら俺が許す。
「俺の入ってるジュニアクラブってさ、月水金しか練習ねぇの。でも、俺は毎日、こうやって練習してるんだ。ちょうど相手探してたとこ」
本当はずっと、アキラを探してたんだけど、今は、言えない。
「相手って、俺じゃ」
「いーのいーの。俺、強くなりたいから」
それは本心だった。このコートに立てるのも、アキラのおかげなんだ。あの時、姉ちゃんが負けなくても、きっとアキラが『格好いい』って言ったから、俺はここに居られるんだから。
「なんで、そんな強くなりたい訳?」
アキラの質問に、正直、心が揺れた。
そのまま言ってしまおうか、でも、俺を覚えていないのに、そんな気持ちが交差する。

