俺の打った球は、コートなんか無視してホームランだったけど、でも、なんかスッとした。

「筋は良いから、絶対にアキラもテニスうまくなるよ」

 そう言って、何度もやってるうちに、自然とボールに当たるようになっていった。

 でも、向こうのアキラは、なんかバテバテだな。

「ちょ、タイム!」

 アキラはそう言って、その場に倒れ込んだ。

「もう無理、休ませて」

「何だよ、だらしねぇな」

 俺も、その場に座る。

 わかってんだ。アキラが疲れる原因。

 俺の打つ球は、コートを思う存分に使って乱れ打ち状態だった。でも、どこに飛んで行こうと、アキラは追いかけて打ち返してくる。しかも、俺をあまり動かさないように、俺のいる場所だけに。

 目いっぱい走らせて「だらしねぇ」は言い過ぎたか……。

「ごめん」

「は? 何謝ってんの?」

「いや、だって、ほら、俺、下手だし」

「始めは誰だってそうだよ、でも、ありがたいんだ」

「え?」

「ばっちし、俺の練習相手に相応しい!」

 アキラは、親指を立てて、笑った。

 それから暫くして、コートの使用時間が過ぎて、二人で片づけ始める。アキラが誘った側だから座ってろ、なんて言ったけど、そんな訳にはいかない。

「いや、俺も使ったし」

「そっか、じゃ、ネットの端っこ持ってくれる?」

「ん、ああ」

 ブラシもかけ終わって、コートから出る。久しぶりに体育以外で良い汗をかいた。それに、何より、初めのイライラがどっかに吹っ飛んで、今は気持ちがすっきりしてる気がする。



――ありがとう。



 そう言おうとしたら、アキラが「また明日も来いよ」って言った。