「そう言えば、お前、意外に軽かったな」

「は?」

「ちゃんと食ってる?」

 このショック、どうしてくれんの、晶。

 そう思いながら、俺は晶に、笑いながら顔を寄せた。 

 このまま、お前にキス、してもいいんだぜ。

 って、俺がしたいんだよ、俺が……お前に、触れたくて堪んね。

「く、食ってるよ! ってか、みんなで抱えてきたんだろ?」

 あ、慌てて顔逸らしやがった。嫌なのか、それとも恥ずかしがってんのか?

「いや、俺一人」

「は、どうやっ……」

「勿論、御姫様抱っこで」

 そう言ったなり、晶は仰け反って、壁に背中をぶつけた。

 そんなにあからさまに嫌がるなっつうの。マジで俺、へこむじゃん。

 でも、ま、いいや。こんな可愛い晶を一人占め出来るんだから、我慢してやる。 

「な、なんだ、ですか?」

 でも、なんか顔が赤い……先生は貧血って言ってたけど、なんか心配で、俺はそっと晶の額に手を当てた。

「熱あんのか? お前、顔、赤いぞ」



――熱い……。



 でも熱いのはお前じゃなくて、俺なのかも……お前に振れた掌が、今にも沸騰しそうだ。

「ね、ね、ね、熱なんかねぇ、ない、ですわよ」

 何だ、この慌てぶり……つか、ですわよ?

「ぷっ。今時、ですわよ、って」

 もしかして無理やり言葉使い直そうとしてんのか?

「マジ腹痛ぇ、ってかお前、面白すぎ」

「わ、笑いたきゃわらえよ」

「は?」

 なんか、今。ほんの一瞬だけ昔の晶が見えた気がした。

 お前はお前のままでいいのに、俺は全然、そんなの気にしてねぇのに。

「な、なんでもねぇ、ですわよ」

「……ですわよって、くっくっく……」

 また、言いやがった。面白ぇ。


 あ、でもこれ以上笑ったら晶に悪いか……俺は暫く笑った後、落ち着きを取り戻すように椅子に座りなおした。

「は――ぁっ、それより、俺ら名前呼ばれる前に出てきたから、俺、お前の名前知らないんだ」

 教えてくれよ、昔みたいに……お前の名前、お前から聞きたい。でもって、ここからまた始めたい。昔のように、一緒に居られるように……。