「てめぇの決める事じゃねぇだろ」

「なによ!」

 見た事ある女だ。確か、いつもフェンス越しに陽に黄色い声を発してる、先輩方?

「あんたに何がわかるって言うの?!」

 そう言って先輩は、手に持ったカバンを大きく振り上げてきた。俺に向かって振り下ろされるそれを、片腕で止め、そのままカバンを奪い取り、地面に叩きつけた。

「きゃっ」

「あんたなにすんのよ!」

 俺は横から茶々入れてきたもう一人の先輩を睨んだ。

「それはこっちのセリフだっての……俺、今むしゃくしゃしてんだよね」

 そう言って、昂った感情を抑える事も出来ず、俺は真横の下駄箱を思い切り蹴った。そしたら、勢いあり過ぎて、今にも倒れそうなほどにぐらりと揺れる。

「言っとくけど、俺、喧嘩負けた事ねぇから、覚悟しろよ」

 指を鳴らし、後退りする先輩ににじり寄る。

「な、何よ、男みたいなくせに!」

 あ、なんか、今……プチって俺の頭の中で音がした気がする。

「ねえ、みんなでやっちゃえば?」

 そんな囁きが聞こえる。ざっと見たところ六、七人ってとこか。でも、負ける気しねぇ。

「へぇ、やるんならさっさとやれよ、でも俺、強ぇよ? いいの? 綺麗な顔に傷ついても」

「は、はったりよ、言葉だけで脅したってそうはいかないんだから」

 そう言って、後ろに回り込んだ先輩が一人、俺に向かって足蹴りをかましてきた。すぐさま俺は体を翻し、その蹴りを受け止めて、平手を一発お見舞いしてやる。

 やっぱ、傷つけるっても、女の顔を拳で殴る事は出来ねぇから、手加減してやったんだ。でも、先輩は思いっきり後ろに飛んで、尻もちをついた。

「い、痛ぁい……」

「弱ぇ」

「な、なによ」

 そう言って尻もち付いた先輩が、顔をあげた瞬間、その表情が凍りついた気がした。