――幼馴染がキスしないでしょ?





 キス……した、のか?





 ちょっと、混乱……心臓痛ぇ……。

「なによそれっ!」

「なにって、今言ったままですけど?」

「なに? 陽君があんたなんかにキスしたっての?!」

「ええ」

「そんなの! そんなの幼稚園とかそんな時じゃないの?!」

「違います……中学の時です、この高校入る、少し前」

 耳を疑った……全身に震えが伝わっていく。




――やっぱり、彼女だったのか。




 みんなの前では違うって言ってたけど、心のどっかで、それ信じようって思ってたけど……もう、ダメだ。

 俺がどんなに気持ち伝えたって、届かないもんがある。

 いくら好きだって思っても、ただ、苦しいだけじゃないか。

 その時、甲高い乾いた音が響いた。

 あ――……亜美、今、叩かれた?

「ふざけんじゃないわよっ!」

 さっきよりも更に大きな音が響く。ガタリと大きな下駄箱が揺れるほどの衝撃が伝わる。

 でも、もう何も考えられない。ただ、わかるのは、俺の恋が終わったって事だけで……。

 俺はフラフラと足を前に出し進む。

「あんたなんか、消えちゃえばいいのよっ!!」

 そう言って、目の前に大きく手を振り上げた女がいた。俺は、その腕を思い切り掴み止めた。

「だ、誰よ! あんた!!」

「ふざけてんのは、てめぇだろ」

「はぁ?」

 俺、今、どんな顔してる? 引きつった顔が酷く歪んでないか? 怒りでいっぱいだ。

 俺は、女の人の前に倒れ込んだ亜美を見やった。突き飛ばされたのか。

 でも、この怒りは亜美への感情じゃない。

「聞こえねぇか? 寄ってたかって弱いもん一人虐めんなって言ってんだろ」

 冷ややかにそう言って、俺は、その女の手を思い切り振り解いた。

「こ、この女が悪いのよ! 陽君とキスしたって嘘言うからっ!」

 嘘? 

 嘘ならいいって思ってんのはお前だけじゃねぇよ。