【竜希side】
時間は8時前。
だいぶ暗くなってきている。
「ハハッハ!」
響くのは間違いなく私の父の声。
機嫌がよくてガバカバ酒を飲んでいる。
父と金田と沢村先輩と赤丸で世間話をして、隆樹と佐々木と大輔も何かは分からないが盛り上がっている。
夏目先輩は、静かにお茶をすすってる。
暑くてならないその部屋を私はコッソリ出た。
「はぁ…正装きっつぃなぁ…」
廊下は少し肌寒くて、でも気が楽だ。
私はキツく締められた帯を叩く。
これのおかげでろくに食事も出来ないし、身動きさえ取れない。
「暑いのか…」
後ろで声が聞こえる。
声の主は夏目先輩だ。
廊下と部屋の間で私をみている。
はい、と答えると夏目先輩も外に出てきた。
廊下はまだ肌寒い。
目の前の庭は葉桜が咲いている。
「夏目先輩も和服は着慣れてるんですね。それ、持参でしょう?」
「まあな、慣れてる。」
優しく微笑む夏目先輩。
一歩踏み出して私と並ぶ。
背景の葉桜と髪が流れた夏目先輩は絵になるように綺麗だった。
「俺の家は歌舞伎役者の家なんだ。」
夏目先輩が呟く。
夏目先輩が自分のことを話すなんて珍しい。
「へー!やること成すこと、しなやかですしね!」
「褒めてるのか?」
「はいっ!」
さり気ない行動に品がある。
私とは大違いだね!
正反対だね!
「…夏目先輩は…家から出たいとか思わないんですか?」
「ないな、今は。」
「今は?」
「昔はよくあった。だが今は自分が夏目家で良かったと思う。」
「…そんなもんですか。」
「リューもいつかは分かる。」
私はこの家が嫌いだ。
そんな気持ち悪いを察してくれたようだ。
夏目先輩は私をみると頭を優しく撫でた。
案外怖くないな、夏目先輩。
いつもくくってある髪は肩まで下ろしてある。
ああ、確かに女っぽい。
すごく色っぽい。
目は真剣で歌舞伎役者に誇りを持っているようだった。


