「おい、あんた…そこに立ってたら邪魔なんだけど」

背後から聞こえてきた低い声に、思わず恐る恐る振り向く。


「――わ…私のことかしら??」


葵より背の高い少年を見上げると、少し明るい茶色の髪が太陽の光で反射してキラキラと瞬いていた。鞄をかったるそうに肩にかけて両手はズボンのポケットに入れて、いかにも今時の学生さんって感じのスタイル。


「…ボーッと突っ立っているの何か、あんたしかいねぇだろ」

「――あの…ッッ」

その態度にムッときた葵は、文句の1つでも言ってやろうかと、口を開きかけた時だった。

ジロリと切れ長の瞳が葵を睨みつけられ、一瞬怯んで、喉まで出かけた言葉を飲み込む。

――こんなんじゃ、駄目よ。生徒になめられる。

ふぅ…とひと息、気持ちを落ち着かせてから、今度はちゃんと言葉を発した。


「――ちょっと教師に向かって、そんな言葉使いは無いんじゃないのかしら??」


――よし、言えたわ。


「――は、あんたが教師?…全然見えねぇよ…ククク」


一瞬、ポカンと口を開けてから、クククッッと人を馬鹿にするような笑い方をする少年にイラッときた。

「――私は教師よ!!」


キッと睨み付けると少年は笑いながら、「――どう見たって…あんた、先生に見えねぇよ」…そう言って、口元を緩ませてスタスタと歩いて行った。


「――あの子、なんて奴なの!?最低だわッッ…」
少年の後ろ姿を見つめながら、葵は頬を膨らませていた。