放課後の校舎の屋上。

 本来ならば生徒の立ち入りは禁じられ、鍵の閉まっているはずのこの場所は、実は鍵そのものが壊れていて密かな生徒たちの憩いの場所ともなっている。

 それでも、放課後に来る生徒は少ない。

 日の落ちかけた空を眺め、美優は目の前のフェンスに指をかけた。


 グラウンドでは陸上部員たちが道具をしまい始め、その向こうではサッカー部がボールを蹴っている。

 誰もいない屋上、掛け声も少なくなっていくグラウンド、そしてその中で夕陽を眺めているのが美優は好きだった。



「美優───!!」

 大きな声に後ろを振り返る。

「またここにいる! いい加減にしないと生活指導に見つかるよ」

 そう言って近づいてきたのは美尋だった。

 鏡のように向かい合った、とてもよく似た少女が二人。

 長い黒髪に白い肌。

 大きな瞳に赤い唇。

 決定的に違うのは、その瞳に宿った輝き。

 美優はいつもどこか遠くを見ているような眼をしていたし、美尋は目の前のものをすべて楽しみつくそうとしている眼をしている。


 その決定的な違いが、この双子の性格を分けていた。


「今日は一緒に帰るよって言ってあったじゃん」

「・・・約束はしてないと思う」

「約束はしてないけど、宣言したの」

 美尋はそう言いつつも美優の手を掴んだ。

「ほら。下で浩介がまってるんだから」

 ぐいぐい引っ張る美尋に引かれながら、美優は困ったように双子の妹を見る。

「本気?」

「本気も本気よ。ちゃんと紹介するって言ってたじゃない」

 不貞腐れたように言う美尋に美優はなおさら困った顔をする。

 先週の終わり、デートに向かう美尋を見て、ちょっと・・・ほんの少し〝羨ましい〟と呟いたのがきっかけだった。

 社会人の浩介と美優たちは幼馴染だった。

 その幼馴染の浩介と美尋が付き合いだしたのは半年ほど前。

 半年たった今でもウキウキとデートに向かう美尋に、美優は少しだけ〝いいな〟と思っただけなのだ。