慌てて食べる姿が、いつもの落ち着いた栄人とは違いまるで少年のように見えた。
栄人から、目を放すことができない。

「それでね。」

「あっ、はい。」

早和は、栄人の声で我に返り、慌てて栄人から目を逸らした。

「お婆さん虫垂炎だったって。病院に搬送されてから、すぐに手術したらしいよ。なぜか、お婆さんが僕らの会社の名前をご存じだったみたいで・・・。」
栄人が早和の胸元をジッと見ていた。

「ああ、そうか。北方さん達の制服って社名が入ってたんだよね。それを覚えてらしたんだ。それでね、二人にどうしてもお礼か言いたいって言われてるそうだよ。それであいつが、あっ、近藤って言うんだけど、俺に連絡しようとしてたらしいんだ。もし・・・北方さんがよかったら、今度一緒にお婆さんのお見舞いに行かない?」

栄人はそう言うと、ちょっと照れたように下を向き、また食べ始めた。
早和は、これは全て夢ではないかと思った。

(これは夢!みんなのあこがれの澤村さんが目の前にいて、しかも私を誘って照れるなんてことが現実のはずがないもの・・・。)

早和は夢だと自分に言い聞かせ、少し正気を取り戻そうとしたが、食事に全く手を付けず、ポカンと口を開けたまま二人を見ている里見の顔を見て、これが現実だと理解した。早和がやっとの思いで「はい。」とだけ返事をすると、栄人はクスッと笑い、日時を決めて「じゃあ、またね。」と去って行った。

その後、早和が里見から問い詰められたことは言うまでもなく、それから二年、二人は付き合っている。