「ママー!おじちゃんが来たよー。」

子供の元気な声が、嬉しそうに響く。

「はーい。今行きまーす。」

早和が玄関に着くと、栄人が立っていた。

「まあ、栄人さん!久しぶりです。どうぞ、上がって下さい。」

「いやあ、今日も暑いね。ちょっと仕事で近く迄来たものだから。」

ついでと言いながらも、栄人はきちんとお土産まで持参していた。
早和はおかしくなって、「いつでも遠慮せずに来て下さいね。」と笑いながら言った。
栄人はちょっと照れ臭そうに、額の汗を拭った。

「ママ、おじちゃんが変なこと言うんだよ。
僕を見て、優人に似てきたなあだって。
僕、最初から優人なのにね。」

子供は、栄人からもらったおもちゃの箱を、小さな体で一生懸命に開けながら不思議そうに言った。

「優人、パパのお名前も優人でしょ。
おじちゃんはね、優人がパパに似てきたって言ったのよ。」

早和が優人の写真を見せながら、優しく話して聞かせた。

優人がこの世を去ってから、五年が経とうとしていた。

「なあんだ、そうかあ。僕、嬉しいなあ。
だって、パパのおメメって、とってもきれいなんだもん。
明日、保育園でみんなに教えてあげよっと。
あっ、おじちゃん見て見て。これねぇ、僕が一番好きなご本だよ。
パパが作ったんだって。」

優人は栄人の膝の上に座り、絵本を広げて見せた。

「これは・・・。」

栄人が、少し驚いた様子で早和を見た。

「ええ、優人が病気と闘いながら作った視覚障害児の為の本よ。
優人が生きている内には完成しなかったけど、今、この子の目を通して見ていると思うわ。」

優人の目は父親に似ていた。
澄んだその瞳は光を宿し、力強く輝いている。

「幸せなんだね。」

栄人が訊いた。

「ええ、とても。優人がいつも側にいてくれるから。」

早和の声は優しく、自信に満ちていた。