栄人と優人ーエイトとユウトー

「早和。」

「えっ？」

「お前、妊娠してる。知ってた？」

早和は首を横に振った。

「優人のことで頭がいっぱいだったから、自分の体のことなんて全然気にしてなかった。
そう、優人の子供が・・・。」

早和は、そっと自分の腹部に触れた。

「早和、お前、優人が死んだ後、自分も死ぬつもりでいただろう。
二人は離れたら生きていけないって言ってたもんな。
けど、お前の中には優人の子供がいる。
一人じゃないんだよ。
優人の為にも生きてくれないか。」

早和はしばらく黙っていたが、天井を向いたまま話し始めた。

「栄人の言う通り、優人の葬儀を終えたら私も後を追おうと思っていた。
優人のいない人生なんて、考えられないもの。
でも、優人は私にこの子を残した。
きっと、優人も分かっていたのね、私が後を追うって。
これで、死ぬことはできないわ。
優人の残してくれた、この子と一緒に生きて行く。
また私、しばらく泣けそうもないわね。
今度はこの子の為に、強くならないといけないもの。」

早和は止まらない涙を隠す為に、両手で顔を覆った。
扉をノックする音がして、誰かが病室に入って来た。

「有川君。」

栄人の声に顔を上げると、入口に里見が立っていた。
早和は涙を拭い、里見の姿をもう一度確認した。

「早和、大変だったね。私、澤村さんから連絡もらう迄、何も知らなくて。」

驚いて早和が栄人を見ると、頷いて「じゃ、また後で。」と病室を出て行った。
里見は、栄人が座っていた椅子にゆっくりと座ると、震えながら話し始めた。

「澤村さんも、私達が喧嘩別れしたこと知っていたみたい。
理由は知らないみたいだけれど。
優人君が亡くなった後、今は早和を許して早和の力になって欲しいって電話がかかってきたの。
私本当は、ずっと早和に連絡したかった。
早和は人を愛するって気持ちに正直に行動しただけで、何も悪くなったんだって後悔したの。
でも、あの時私とてもひどいことを言ってしまったから、自分から連絡することができなかった。
早和が苦しんでいる時に、何の力にもなれなかったなんて・・・。」

涙で、何も言えなくなった。
早和は里見の手に、そっと自分の手を重ねた。