今後きちんと服薬せれば、頻繁に発作が起こることはないが、確実に腫瘍は悪化している。
また、いつ起こるとも限らない。
それに優人は何も言わないかもしれないが、頭痛や嘔吐も激しいと思う。
彼はこれから、精神的にも身体的にも追い詰められていくと思うよ。
早和さん、覚悟はしておいて欲しい。」

近藤の話し方は優しかったが、早和は、これからが本当の闘いなんだと告げられた気がした。

優人は状態が落ち着くと、また家に帰ることを希望し、早和も近藤もそれに反対はしなかった。

「優人、限界を感じたらいつでも言って欲しい。」

帰り際、近藤が声を掛けた。

その日、早和は仕事を辞めた。

優人は一人でも大丈夫だと言ったが、自分が一緒にいたいんだと説得し、それからは常に優人と過ごすようにした。
早和は今迄自分のことで忙しくて気付かなかったが、優人は毎朝嘔吐やひどい頭痛に襲われているようだった。
それでも薬で治まると「心配しなくて大丈夫だよ。もう、慣れちゃったよ。」と、いつもの優しい笑顔で言った。
優人は今迄通り、午前中は病院、午後は絵本作りという生活を変えようとはしなかった。
それから痙攣発作は見られなかったが、食事は入らず、徐々に痩せて衰弱していくのが誰の目にも分かった。
夜間も眠れないことが多くなり、眠っている時でもうなされる事が頻繁にある。
絵本作りの時間は日毎短くなり、家にいる間はほとんど布団に横になって過ごした。
テレビでは紅葉のニュースが流れ、誰もが冬支度を始め出した或る日、布団で臥床している優人が早和を呼んだ。

「早和、来て。」

早和は、優人の体を拭く準備をしていたが、すぐにその手を止め、側に駆け寄った。

「どうしたの?苦しいの?」

心配そうに声を掛ける早和に「大丈夫だよ。」と答え、「早和。」と両手を差し伸べた。
早和はその手をそっと取り、自分の両頬に持って行った。