優人と早和の二人の生活が始まった。
優人は、コンピュータープログラマーになる夢は諦めると言って、学校を辞めた。
体力的にも無理だと思われた為、早和も賛成した。
その代わり、絵本を作ると言う。

「実は兄貴にも言ってなかったんだけど、俺ずっと学校が終わった後、学校仲間やボランティアの人達と視覚障害児の為の絵本作りをしていたんだ。
学校は辞めるけど、それだけは続けたい。
いいだろ?」

早和は優人の体力を考えると心配だったが、優人のしたいことは何でもさせてあげたかった。

「もちろん賛成よ。その代わり、私にも絵本作りを手伝わせること。これが条件ね。」

早和の優しい笑顔が、眩しかった。

「愛してるよ、早和。」

優人が、早和を強く抱き締めた。

「私も・・・。」

早和は、優人の温かな胸に顔を埋め、この幸せが少しでも長く続くことを祈った。

二人の生活は充実していた。
午前中、早和は近くのスーパーで働き、優人は病院に通った。
そして午後からは、二人一緒に絵本作りに出掛けた。
貧しく、毎日同じことの繰り返しだったが、それでもとても楽しかった。
優人の病状も安定し、早和はもしかしたらこのままこの生活がずっと続くのではないかと思うことさえあった。
しかし、それが束の間の夢だったと思い知らされる時がきた。

パターンッ!

その大きな音に振り返ると、優人が椅子ごと後ろに倒れていた。
小刻みに全身が震え、声掛けにも返答しない。
早和はそんな優人を初めて見たが、以前近藤が話していた痙攣発作だと分かった。

「救急車を読んで!」

大声で叫び、すぐに救急処置を始めた。
発作は数分間隔で繰り返され、救急車で搬送される間も止まらず、早和は目を背けないようにするのに必死だった。

「大変だったね。」

近藤が処置を終え、廊下で待っている早和の所にやって来た。
早和の横に座る。

「今、注射で治まって眠っているよ。
外傷や麻痺などは見られなかった。
早和さんが、適切な処置をしてくれたお陰で今回は悪い状態はまぬがれたよ。