そをな近藤に、優人はやはり落ち着いて答えた。

「先生、自分で言うのも変だけど、俺はこれまで多くの試練に堪えて来たと思うんだ。
だから早和と結ばれた時、やっと神様からそのご褒美がもらえたと思った。
例え短くても、どんなに苦しい思いをしても、早和と二人の時間を少しでも長く過ごしたいんだよ。
手術をしても、全てを取り除くことは難しいんでしょ。
もしかしたら、そのまま意識が戻らないかもしれない。
放射線治療をしたら、幾らか長く生きられるかもしれない。
けど、その副作用に堪えながら、死ぬまで病院で過ごすなんてそんなこと嫌だよ。
先生、毎日だって通院する。
だから、家に帰らせて。
早和との思い出を作りたいんだ、お願いだよ・・・。」

張り詰めた糸が切れたように、優人は早和の胸に泣き崩れた。
さっき迄落ち着いていたのは、近藤に自分の気持ちをきちんと伝える為に、気を張っていたせいかもしれないと早和は思った。

「早和さんは、どう思いますか?」

近藤が、もう自分には決めることができないといった表情で、早和に尋ねた。

「優人の人生です。先生にはご迷惑をお掛けすることになると思いますけが、優人のしたいようにさせてあげたいと思います。」

近藤は早和のしっかりとした口調にやや驚き、じっと見つめた。
その後、笑顔で話し始めた。

「あなたは強くなったね、早和さん。
医者っていうのは、病気があれば治すことばかり考えてしまう。
君の言うように、優人の人生だ。
僕らは、ただ彼を支えてあげればいいんだよね。
そんなことも分からなかったなんて・・・。
優人、君はもしかしたら誰も得ることのできない素晴らしいご褒美を、神様からもらったかもしれないな。」

「うん、俺もそう思うよ。有難う、先生。」

優人も笑っていた。

(優人、あなたは気付いていないけれど、私を変えてのは優人自身だよ。
あなたの優しさや愛する力、そしてその澄んだ瞳が私を変えた。
先生さえも。)

優人の笑顔を見ながら、早和は思った。
暑い八月が終わろうとしていた。