午後から、優人と早和は入院の為病院に向かった。
数日掛けて幾つもの検査をしたが、それは最初の近藤の診断を決定的にするものでしかなかった。
ある日、早和が近藤から呼ばれた。

「早和さん、手術をするにしろ、放射線治療を開始するにしろ速いほうがいい。今から優人に全てを話そうと思います。いいですね。」

「はい、よろしくお願いします。」

早和は、心からこの若い医師を信頼していた。
そして、優人を支える覚悟もできていた。
看護師の案内で、優人が部屋に入って来た。

早和がいるのを知ると、少し驚いた表情をしたが、すぐにいつもの穏やかな笑顔を見せて「ちょっと怖いな。」と言いながら、ゆっくり椅子に座った。

近藤は、フィルムなどが見えない優人に、ひとつひとつ分かりやすく説明を始めた。
それを優人は、全く動揺することなく聞き終え、その後、ゆっくりと話し始めた。

「先生、正直に話してくれて有難う。
早和も知っていたんだろ?
よく一人で堪えたね。
けど、前にも言ったろ?俺には早和の心が自然と伝わってくるんだって。
最初に病院に来た時から、悪いのは分かっていたよ。
だからここ数日、残りの人生をどう生きて行こうかと、ずっと考えていたんだ。
そして決めたよ。
俺は、手術もしないし、放射線治療もしない。
早和と家で一緒に暮らしたいんだ。
駄目かな、先生、早和。」

二人は思いもよらない優人の決断に、一瞬言葉を失った。
我に返り最初に口を開いたのは、近藤だった。

「何を言ってるんだ、優人!
何もしなかったら後三ヵ月さえ生きられるかどうか分からないんだよ。
それに、今は軽度の頭痛や吐き気程度だけれど、それが急激に悪化したり、他にも神経症状やてんかん発作など脳の病気はね、どんな症状が現れるか分からないんだよ。
家で暮らすなんて無茶だよ。
さっきも言ったように、確率は低いけど手術で完全に取り除ければ、治る可能性だってあるんだから。」

近藤は、説得というよりも、むしろ懇願しているようだった。