「澤村様、第二診察室にお入り下さい。」

アナウンスで呼ばれ、二人は診察室に入った。

「優人、幸いどこも骨折していないようだよ。ただ・・・。」

近藤が、チラッと早和の方を見る。

「優人も、栄人から目が見えなくなった理由は聞いていると思うけど、もう一度言うな。
頭の後ろの方に目の神経、つまり視神経がある。
その脳の部分に腫瘍ができて視神経を圧迫した為に、君の目は見えなくなってしまったんだ。
手術しようにも危険を伴う部位だけに、不可能だった。
目は見えなくなったが腫瘍自体は良性だった為、今迄年に一度検査を受けてもらいその経過を見てきたんだけど、特に変化は見られなかった。
今回の検査の結果でも、その腫瘍は今迄通り変わりなかったよ。
だがー、それとは違う部分に新に腫瘍が見付かった。
脳の腫瘍は他の臓器と比べて良性のことが多く、転移も殆どない。
症状も今のところ軽度の頭痛や吐き気程度だから心配いらないとは思うけど、一応詳しく検査をする必要があるから、入院したほうがいいな。
このまま入院できる?
ベッドはすぐに用意できるけど。」

優人はしばらく考えた後、しっかりした口調で答えた。

「今日は一旦家に帰ります。
兄に話があるので。
明日、入院の準備をしてまた来ます。
有難うございました。
早和、行こうか。」

「うん・・・。」

早和は優人の様子から、今の気持ちを図り知ることはできなかった。

「待て、優人。入院は明日でも構わない。
けれど、君をこのまま帰すことはできないよ。
食事も摂っていないようだし、かなり衰弱している。
それに症状を抑える必要があるからね。
取り敢えず、今から点滴をしていってもらうよ、これは絶対にだ。」

優人も、それには素直に応じることにした。