「は、はいっ。このお婆さんがとても苦しそうにしていらして、どうしたらいいのかと困ってて。」

早和の話を聞き、老人に声を掛けた栄人の顔色が変わった。

「北方君、僕が背負って下までお連れするから、君は救急車を呼んで。早く!」

「はっ、はい。」

栄人の様子に一層慌てた早和だったが、急いで公衆電話まで向かい、何とか言われた通りにすることができた。救急車が到着するまで、早和は何度も何度も「もうすぐ来ますからね、頑張って下さいね。」と老人に声を掛けて励ました。電話をかけてから五分程で救急車が着き、老人を搬送して行った。

「悪くないといいな。」

栄人が心配気につぶやく。

「そうですね。」

と言った後、早和は隣りに澤村がいることに気付き、慌てて礼を言うとその場を駆け出した。

「緊張したあー。」

初めて会話をしたというのに、顔をきちんと見ることさえできなかった。けれど、走りながら澤村が自分の名前を知っていたことを思い出し、「やった!」と嬉しさのあまり、思わず小さなガッツポーズをしていた。

「何やってるんだろ?」

栄人は、そんな早和の後ろ姿を見送りながら思わず吹き出した。

「北方早和。なんか優人に似てるなあ。」