早和と優人も、しばらく電話の前から動けなかった。
それからどれ位の時間が経ったのか、鳥の鳴き声に目覚めた。
もう、外は明るくなっていた。

「おはよう。二人共、あのまま眠っちゃったんだね。」

早和は、努めて明るく振る舞った。

「うん。痛っ。何か、昨日より痛い気がする。」

優人は殴られた後が色濃く残り、思っていたより重症のようだった。

「今日、栄人さんの所に行く前に、病院に行こう。診てもらったほうがいいよ。さっ、朝食でも作るね。」

「ごめん、早和。俺、朝食はいらない。
最近頭痛や吐き気がして、あんまり食欲がないんだよね。
今日もちょっと気分悪いから、何も摂らずに病院に行くよ。
前から診てもらっている先生がいるから、今日そこに行って、そのことも話してみようと思うんだ。」

「あっ、近藤先生だね。私、会ったことあるんだよ。」

「あー、兄貴と付き合うきっかけになったんでしょ、前に聞いたことあるよ。
子供の頃は、近藤先生のお父さんに診てもらっていたんだけどね。
二人共、とてもいい人でさあ。
近藤先生は兄貴と同じ年だから、何でも話しやすいんだ。」

早和は会社に連絡し、休みを取った。
早和だけ朝食を簡単に済ますと、二人でタクシーで病院に向かった。

「近藤先生、俺達を見て何て思うかな。結婚式には招待してたんでしょ。」

「うん・・・。でも、もうこれからは人の顔色ばかり見て生きていくのは止める。
栄人さんを傷付けることで、私はこれから沢山の人に責められると思う。
でも、それでも優人だけは失いたくないの。
だから、人に何と思われようと平気だよ。」
早和は、優人が初めて会った時の早和と明らかに違っていた。
優人は、早和の自分に対する想いの深さを感じていた。

「うん。俺も、今迄ずっと俺を守ってくれた兄貴を失うことに不安がないと言ったら嘘になるけど、早和が側にいてくれるだけで、それだけで強くなれるよ。
今は誰も俺達二人のことを認めてはくれないだろうけど、いつかは認めてもらえると信じて、二人で頑張って生きて行こうな。」