結婚式まで後一ヵ月。
早和は頻繁に栄人のマンションに出入りしていたが、意識してなるべく優人と二人きりにはならないようにしていた。
早和は、優人も自分と同じ考えでいるような気がしていたが、それにさえも気付かないふりをした。
しかし、ある日、一緒の時間にマンションに着くはずの栄人が急な仕事で遅くなってしまった。
早和が買い物を済ませてマンションに着くと、優人が一人で洗濯物をたたんでいた。

「あっ優人君、私がするからいいよ。栄人はどうしたの?この時間に自分も帰って来るって言ってたんだけど。」

「そう、家には何も連絡ないけど。仕事かなあ。」

早和が優人と代わろうとしてすれ違う時、栄人とは違う甘い香がした。

「何の香水使ってるんだろ?」

「えっ?」

「あっ、ごめんなさい。私の好きな甘い香がしたから・・・。」

早和は、自分の思いを声に出していたことに驚き、慌てて言い訳をした。
優人は早和のその慌てた様子がまるで見えているかのように、クスッと笑った。

「俺、香水なんて付けないよ。正直、香水はちょっと苦手。臭いに酔っちゃうんだ。」

「えっ、そうなの?でもね、優人君から本当に甘い香がするんだよ。」

「うーん、だったらシャンプーの臭いかな?探すの面倒だから、子供の頃から髪も体もシャンプーで洗ちゃうんだ。そう言えば、今使ってるのフルーツの香だよ。俺は・・・、早和さんの香が好きだけどな。」

早和の鼓動が、また早くなった。

(もー、最近の私の心臓はどうしちゃったの?)

「えーっと、私の香って・・・、嫌だ!汗臭い。外は凄く暑かったから、汗かいちゃった。もう、七月だもんね。」

「そうだね。もう七月なんだよね。」

早和が話を逸らすように答えると、優人はそれが分かったようにしばらく考えてから、つまらなそうに答えた。
(そう、七月。私はもうすぐ結婚するのよ。)