「早和さん、俺・・・」

「ただいまー、もう飯できた?」

優人が何か言おうとした時、栄人が帰って来た。
二人は何かに弾かれたように離れた。

「う、うん。ごめんなさい、もう少しでできるから。」

別に悪いことをしていたわけではないと思うのだが、なぜか早和は栄人に対し、何かしら後ろめたい気持ちでいた。
しかしそんな気持ちでいながらも、優人があの時何を言おうとしたのかがずっと気になって、頭から離れない。
優人を見ると、その後の態度はいつもと何ら変わりはなく、早和は自分だけが二人の前で落ち着きがないことが恥ずかしくなった。

(もう、早和、しっかりして!優人君は別に特別なことを言おうとしたんじゃないんだから。考え過ぎだよ。)


優人は、あの時自分が何を言おうとしたのか考えないようにした。
自分の気持ちに自分自身が気付いた時、もう後戻りはできないと分かっていたからだ。
あの時、栄人が帰って来たことが、自分の運命であり、三人の運命だと自分に言い聞かせた。
その日の夜も、栄人と優人はいつものようにそれぞれの部屋で眠り、早和は居間で眠った。
栄人から求めてくることはなかったが、その日は早和から栄人の部屋に行った。

「栄人、もう眠ったの?」

「えっ早和、どうしたの。」

「どうもしない。けど、今日は栄人と一緒に眠りたいの。いいでしょ?」

早和は、優人が側で寝ていることを意識しながら栄人に抱かれた。
そうしないでは、いられなかった。
優人は普通なのに、早和は優人のことばかり考えてしまう。
優人の笑顔や涙、そしてあの時何を言おうとしたのか・・・。
そんな自分を栄人にしっかり繋ぎ止めていて欲しかった。

優人は目覚めていた。
栄人と早和のことに気付くと頭が混乱して、胸が騒いだ。
頭から毛布を被り、必死に眠ろうとした。