「ねぇ、早和やばいよ!」

この会社で一番仲がいい有川里見の朝の挨拶がコレだった。

「なに?」

制服に着替えながら里見がちょっと大袈裟に息を吐く。」

「なに?何じゃないでしょ。早和、昨日澤村さんと渋谷で会ってたね。」

「えっ、里見いたの?だったら、声かけてくれればよかったのに。」

「私じゃないわよ。広報室の美子が見たって言ってたの。でも、大丈夫だよ。澤村さんは分かったけど、遠くだったから、女の顔は分からなかったって悔しがってたから、早和だって気付いてないよ。だけどー、みんなに知られたくないんだったら、もうちょっと用心しないとね。あんたは分からないかもしれないけど、澤村さんのあの容姿は何処にいても目立つんだからさあ。」

「あっ、ひどーい!人が一番気にしていることを。私だって分かっているわよ。けど、たまには一緒に買い物とかしたいじゃない。普通の恋人みたいに。それに・・・。」

「はい、はい。」

里見がちょっと呆れたように続けた。

「だからさあ、みんなに話ちゃいなよ。二人付き合ってますって。別に社内恋愛禁止ってわけでもないんだし。澤村さんもそうしたいって言ってるんでしょ?なのに早和がみんなに知られたくないなんて。私には分からないよ。だから、未だにみんな澤村さんのこと狙ってるんだよ。私だって、こうして早和と話せるようになるまで、結構悩んだんだからね。」

「うん、分かってる。里見ごめんね。でも、もう少しだけ待って、もう少しだけ・・・。」

早和はどうしようもない思いと闘っているようだった。

「私こそごめん。早和が自分に自信が持てなく、みんなに話せないこと分かってるのにこんなこと言って。だけど早和、あんた本当に愛されてるよ。二年間二人を見てきた私が言うんだから大丈夫。もっと自信持っていいよ。とっ、早和急いで!遅刻だよ。」

二人は更衣室を駆け出した。

(里見ありがとう。でも、里見にもまだ話していないことがあるの。もちろん栄人さんにも。話せるようになるまで、もう少し時間がほしいの、私が強くなるだけの時間が。だから、あと少しだけ待ってね。)

そう、早和は心の中でつぶやいた。