「早和、ねえ早和大丈夫?」

「えっ、は、はい!何でしょうか?」

ボーッとしていた早和は、里見の声に驚いて我に返った。

「何じゃないでしょう。大丈夫?いくら今日優人君だっけ?澤村さんの弟に初めて会うからって、今のうちからそんなに緊張しちゃって。」

里見が心配するのも無理はない程、早和は緊張していた。優人は、名前の通り、とても優しくて天使のような子らしい。けれど、今までたくさんの辛い経験をして、しかも目が見えないという子が、栄人が言う程簡単に自分のことを受け入れてくれるだろうか?それに、正直言って、目が見えない人と接したことがない為、どう対応していいのか分からないという不安があった。「里見、優人君に嫌われちゃったらどうしよう。恐いよー。」

「何言ってんの。早和なら大丈夫。あんたは自分では気付いていないかもしれないけど、誰からも愛される子だよ。いつも周りに気を遣って、誰にでも優しくて。ねっ、だから普段の早和でいいんだよ。そのままで。」

早和は、里見の言ったことをそのまま信じることはできなかったが、里見の言葉で少しだけ勇気が出てきた。

「うん、そうだよね。いつもの私でいればいいよね。ありがと、里見。」

(本当に、大好き!)

そこは、栄人と早和の行き慣れたレストランだった。何か特別なことがあると、いつもそこで食事をする。先日のプロポーズもそうだった。早和は、今日は仕事にならない上に、幾つか失敗をしてしまい、十五分程約束の時間に遅れた。

「ごめんなさい、遅れてしまって。こんな大切な日に遅れるなんて、何て謝ればいいのか・・・。本当に、ごめんなさい!」

早和は席に案内されると、立ったままで何度も何度も謝った。申し訳ないやら、恥ずかしいやらで二人の顔を見ることさえできなかった。