あたしとしたことが。
敵の前で一瞬でも眠るとは……
こいつからいつだって殺意みたいなものを感じたことがなかったけれど、それでも油断は大敵。
響輔が無言であたしを見下ろしてくる。
唇を引き結んで、流し目であたしを見下ろす視線は悪意を感じられず、すっと通った鼻梁が横から見るときれいに際立っていた。
男にしては少し色白の肌に艶やかな黒い髪が馴染んでいて、どのパーツをとってもしっくりと彼に馴染んでいる。
好みの顔じゃないけど、やっぱこいつ整った顔してる。
クマだってキモいって言ったけど、本当はこうゆうの付けてる男の子嫌いじゃない。
その考えに一瞬だけドキリとして、あたしは慌てて体を戻した。
どうやら響輔の肩にもたれかかって数分……もしかしたら数十分かも…とにかくあたしは眠っていたらしい。
「気持ち良さそうに眠っとったのに」
響輔は別に嫌そうでも迷惑そうでもなかった。
てかこいつの無表情からは何も読み取れないだけだけど。
でも響輔の肩先の体温や、こいつの纏う香りが何だかすごく心地よくて、
何だか―――安心できたんだ。
そんな考えを無理やり否定するようにあたしは頭を振って、ケータイを取り出した。
ケータイの画面にはデジタル時計が午前11時を指し示していた。
新大阪を出てまだ十五分ほどしか経ってない。
はぁ、あと二時間十五分もある……
吐息をつくと、隣からにゅっと手が伸びてきた。
びっくりして目を丸めると、響輔の手の中にはさっきあたしが指摘したテディが握られていた。
「あんたさっき可愛い言うたやろ?こうゆうの結構好きなんやないの?あげるワ」
え……。え?
目をまばたいて響輔の手の中にあるテディと響輔を見比べる。
響輔の黒い目からは相変わらず何の感情も読み取れなかったけど、あたしはそのテディを素直に受け取った。



