「ゆ……!」


マネージャーはあたしの名前を叫び掛けて、慌てて口を噤んだ。


人の波に流されるまま、響輔に引っ張られるまま手近な席へ座らされる。


もはや抗議の言葉すら出す余裕もなかった。


ホームとは反対の窓際の奥の席。


響輔は無言で隣に腰掛けてきた。あたかも当然のごとくその仕草は自然だった。


「ちょっと!何なのよ、あんたは!」


響輔が隣に落ち着いて、ようやくあたしが声を上げると、


プルルルル…


『間もなく東京行きのぞみ226号が発車いたします』場内アナウンスが流れ、音もなく新幹線が発車しだす。


ちらりと奥を見やると、黒いスーツに身を包んだ男たちがホームをきょろきょろしながら彷徨っていた。


マネージャーはケータイを手に呆然と突っ立っている。


呆然としたいのはあたしの方だけど、でもちょっといい気味。


あたしはちょっと舌を出してマネージャーにあかんべをした。


どうやら鴇田の舎弟の尾行は巻いた様だ。同時に口うるさいマネージャーからも開放された。





響輔は―――あたしを助けてくれた……?




どうゆうつもりなのか聞きたくて響輔を見ると、響輔はボストンバッグを片手に席を立った。


「ちょっと!どこへ行くつもりよ!」


慌てて腕を掴むと、


「どこって、場所変わろかな思て。もう鴇田さんの尾行は巻いたし、ええかなって」


なんて、しれっと言う。


「よ、良くない!!あたしを置いて席変わるの!?」


言ったあとになって、はっと気付いた。





あたし―――何言ってんだろ………